『好き』なものが増えれば増えるほど、人生は楽しくなるものだと勝手に想像していた。
日々絶え間なく襲ってくる『嫌い』が視界に入っても見て見ぬふりをして、わたしはせっせと『好き』を集めてきた。砂浜で、綺麗な貝殻を探す少女のように。
そしていま、わたしの周りは両の掌では掬いきれないほどの『好き』で溢れている。
はっきり言って幸せだ。
けれども、ここ最近何やら異変が起きている。
なんなんだろうこの状況は。
ハンバーグがすきだ。だいすきだ。
海に向かって叫びたい。
なのに、『実は、ハンバーグ1個食べると寿命が2、3ヶ月縮むらしいよ』っていう研究結果が、最近偉い人から発表されたのである。……激震。発表するなよ。知らなくてよかったのに。これはつまり、大好物を今後一切もう食べるなということか。世界よ、なぜ美味しいものほど体に悪いのだ。
わたしは、ハンバーグの揺るぎなき美味しさと、自分の寿命を天秤にかけ、そして思う。
その犠牲になる寿命の曖昧さは何なのだ。ああ。本題とは無関係なところで、いつもわたしの思考は捩れて絡まる。いくら待っても、天秤が安定する様子は、まるで無い。頭をよぎるハンバーグとの決別が徐々に鮮明になってゆく。
いっそのこと、イスラム教徒にでもなれというのか。
まさか。このようにして、人間は宗教に身を染めていくのだろうか。
……神様。どうか。教えてください。
豆腐ハンバーグはOKですよね?